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by Lily

Personal Statement



本展示会をするに至り、ご縁を頂き金盛郁子さんにパーソナルステートメントを書いて頂きました。

彼女も私と同じ歳で、同世代で今後の活躍を期待されるキュレーターです。


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皆川百合は、日本 奈良県出身の現代美術家である。


人間の原始的な行為「祈り」の精神を「装飾」という行為として捉え、作品を制作する。工芸を「装飾芸術」と呼ぶ彼女は、「装飾」という言葉をキーにして、技法と領域にとらわれない表現をすることで「工芸」の可能性を広げてくれる存在であろう。

彼女の制作には「装飾」そして、その奥には「祈る」という行為が深く紐付いているという。「祈る」という行為は、私たちの日常に浸透しているものだろう。心に留める何らかのことが、今よりも良くなるようにと、自分のために、誰かのために、未来を想う。だれもが持ちうるプリミティ

ブな行為だ。

この重要なテーマである「装飾」と「祈り」の関係は、彼女の実家であるお寺に起因しているという。お寺とは不思議な場所だ。ある人工的な装飾物、美的なものがインストールされた空間が、何百年も保ち続けられている。そこに行くと自然と心が落ち着いたり、祈りたい気持ちになる。

何か、大切なことを自分の中に問う気持ちになるのだ。

そんな空間を身近に感じて育った彼女であるからこそ、「祈り」という行為を、装飾的な表現を用いながら作品へと昇華していけるのであろう。

彼女自身、自分に化粧を施したり、何かを飾ったりする(デコる)行為に自然と惹かれ、その精神を紐解いた結果、実家であるお寺の空間に繋がったという。

また、彼女の興味深い点は技法にも言及できる。作品によっては油絵のようにも、水彩にも、あるいは彫刻にも見えるかもしれない。それらは、伝統的な技法にとらわれない、オリジナルテクニックによって生み出されたものたちだ。巧みなのは、作品によって素材の見え方がコントロールされている点だ。ひんやりとした水のイメージを表現するときは、布の艶やかさやハリは活かしながらも、特有の柔らかな風合いは抑えるなど、繊細に素材を操る。それは、素材を研究する彼女こその表現であろう。

既存に捉われない自由な表現は、一見、技法を重視する「工芸」から距離があるようにも見えるが、制作における熱心な研究過程を想像すると、それこそが「工芸」のあるべき姿かもしれないとも思わされる。


人間のプリミティブな行為である「祈り」をテーマにする作品は、「工芸」という、人々の生活行為に取り込まれる存在と成に親和性がありながらも、鑑賞性のある「アート」としての要素も持ち合わせている。彼女は、「装飾」という言葉をキーにして、「工芸」と「アート」を自由に行き来するのだ。

本展示では、サブタイトルである「憶想を結ぶように、彼女がかつて実家の寺院で過ごしたときの山門の古材や、瓦なども作品とともにインストールされている。


鑑賞者は展示を通じて、彼女の作品に不思議な新しさを覚えながらも、様々なオブジェが配置されることにより生み出された、この懐かしいような空間で、自分と向き合い、大切な誰かのことを想うような、そんな時間を過ごすことができるのかもしれない。



文: 金盛郁子





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