What is "SOMÉ" ?
"染め"とは?
日本では布による表現を「染織」、西洋では「テキスタイル」と呼ばれています。日本の「染織」の語は「染め」と「織り」の2つの造形から構成され、織った布に模様を染めるものが「染め」(後染め・模様染め)で、先に糸を染めてから布に織る表現が「織り」(先染 め・模様織り) とされています。これら双方の総称が「染織」です。
基本的に「染め」は、繊維から成る糸によって構成された布の深層に、染液の浸透をコントロールすることで模様を表現する芸術です。
「織り」は、繊維から成る糸の組織をコントロールしながら模様を表現する芸術です。このことから「染織」は、「染め」と「織り」の互いに共通した繊維素材である布と染料を介した一体的な造形意識があります。
では、西洋の「テキスタイル」とはどのような造形意識なのか。西洋の「テキスタイル」は主に、
1.「構成テキスタイル (constructed textiles):織りやニット、レースなど繊維の構成、またはパッチワークやキルトなど布と繊維の構成)」
2.「プリント(printed textiles)」に分類されます。
これを「染織」に変換した場合、「染め」=「プリント」、「織り」=「構成テキスタイル」に対応します。しかし、日本の「染め」と西洋の「プリント」の造形感覚には異なりがあります。
「プリント」は「捺染」とも訳されることもありますが、本来は印刷や版画のことを指します。
基本的に顔料インクを使用し、布以外にも壁紙、タイルなどの表面にプリントの手法が用いられます。そのため「プリント」における布は、絵画のキャンバスや版画の紙と同様に、イメージを乗せるための支持体として位置付けられます。
実際、西洋の「プリント(染め)」は、度々「サーフェスデザイン(表面の意匠)」という言葉で代用されています。このことから、布を支持体として表面にプリント(印刷)する発想が強いため「プリントテキスタイル」は布の表層による模様作りの造形意識に対し、日本の「染め」は布の深層による模様作りの造形意識を持つことがわかります。
更に「染め」は、布に染液を浸透させて表現することから、布の表面に「描く」感覚は希薄です。模様染め技法のなかで最も絵画描写的な表現の友禅染では、糊は「置く」もの、色は「挿す」ものと表現されます。それは、色は布の深層部にとどまり、糊は布の表層部から水で洗い流されることが理由です。染めの工程においても深層と表層の微細な視点がわかるように、一枚の布に深層と表層をみる「染め」の造形意識には、細部から全体を見ようとするものがあります。
このような造形意識を持つ日本の「染め」は日本の文化的背景や精神が色濃く、日本独自の発展を遂げた染色技法が数多く存在します。そして日本人である皆川は「染め」の色を「生もの」と捉え、伝統技法から抽出した独自の技法で、布に「生きている色」を染めています。
※技法を表す際は、染め/Dye、織る/Weave
※参考文献
皆川百合『染飾によるバイロジック表現』東京藝術大学大学院美術研究科博士学位論文,2023
What is "IRORURA" ?
"色むら模様"とは?
皆川は「むら」をポジティブに捉え、自作品のメカニズムで発生した「色」と「むら」は「斑紋」として「色むら模様(IROMURA)」と呼びます。
『広辞苑』では「むら」の意味は、「色の濃淡、物の厚薄などがあって不揃いなこと。物事の揃わないこと。一様でないこと」とされており、 一般的に「むら」はネガティブな言葉で使われることが多いです。
美しいと感じる「むら」は感性の問題になってくるため「むら」=「美」を証明することは難しい。しかしながら、琳派や陶器、染色など日本の美術には「むら」といえる表現を肯定的に捉えて、意図的に用いられているのは事実です。
染めの「むら」現象は決して珍しいものではなく、染色の制作現場では日常的に発生しているものです。そのため、分業工程を軸とした伝統技法を行う染色家たちは均一に染めることを目標とし、「むら」を失敗と考え、排除し克服しようとしました。
一方で、芸術表現としての一品一貫制作では、表現の自由度から独自性を重要視する表現者は、分業工程によりこれまで排除されてきた不均一性、即興性、偶然性、むら、滲み、などを コペルニクス的転回から価値を創造し、再現度の低いこれらの効果を積極的に表現に取り入れています。
皆川は「色の軌跡」である「むら」を「生きた色模様」と捉え、生活の些細な現象を糸口に「色むら模様」の制作を行っています。
※参考文献
皆川百合『染飾によるバイロジック表現』東京藝術大学大学院美術研究科博士学位論文,2023
Dyeing Techniques used by Dr.Lily
Larve-Tie-dye
This is a unique dyeing technique based on the traditional Japanese tie-dyeing technique, in which a butterfly undergoes a complete metamorphosis from a larva to a butterfly.
The result is dyed with organic patterns and contrasting colors.
「ラーバタイダイ(Larva tie dye)」
この技法は、日本の伝統技法である”絞り染”を元に、幼虫から蝶が完全変態する様な工程を施す、独自の染色技法です。
地を這う幼虫から空を飛ぶ蝶へ、二次元の世界から三次元の世界へ。平面から立体へ変化する布に見立てて付けた名称です。
有機的な模様とコントラストのある色に染め上がります。
Whim-dye
This technique uses textile printing to dye patterns using only hand scrolls.
The result is a pattern with movement like marbling or action paint.
この技法は"捺染"を用い、手のスクロールのみで模様を染める独自の技法です。無意識かつ無意味な模様がパレイドリア現象を誘発する事で、様々な模様へ変化します。また、マーブルやアクションペイントのような動的模様にも染め上がります。
Wet-in-wet-dye
This technique is a unique application of the Japanese painting technique " TARASHIKOMI " to dyeing.
この技法は、日本画の技法の一つ没骨画法の「たらし込み」を染色に応用した独自の染色技法です。
Discharge-dye
"BASEN" is a technique in which a pattern is created by removing colors that have been dyed once.
「抜染」とは染着後の地染めした布に抜染剤を含んだ抜染糊を印捺し、熱処理を行うことで印捺部の染料を可溶化し、脱色することで地染部に模様をあらわす技法です。